荒野

 天使が荒野に降ってきて、小さな星を落としていった。
 羊飼いはそれを拾って、王に届けた。
 王は星があまり輝くので、むしゃむしゃと星を食べてしまった。

 王の腹の中で星はちりちりと光り続けて、やがて王は光になった。
 白い光の束の中から、星がぽろりと転がり出た。
 星は少し大きくなって、弱くも脈打つようになった。

 王座に転がる星を、今度は道化師が拾って、家に持って帰った。
 道化師は、星をきれいな螺鈿細工の箱に入れ、妻には箱を開けぬよう言い包めて、新たな王を探しに旅に出た。

 妻はさみしくてならなくて、螺鈿の箱を開けてしまった。
 その拍子に星は妻の足の甲に食い込んで、骨に根を下ろしてしまった。
 星は少しずつ、骨から骨へと潜っていき、やがて道化師の妻は光になった。
 星はまた少し大きくなって、弱くも声を出すようになった。

 住む者の消えた家に、盗賊が入り込んだ。
 盗賊は星を見つけて、懐に入れた。
 星は明るく暖かく、小さな声で鳴くので、盗賊は星を大層愛しく思った。
 そこで、盗賊は星と一緒に荒野に住んだ。
 誰にも星を奪われたくなかったのだ。

 盗賊は、寝食を忘れて、星を見つめ続けたので、盲いてしまった。
 それでも星を撫で続けるので、指は溶けてなくなってしまった。
 今度は抱いていとおしんだので、やがて盗賊も光になってしまった。
 星はまた大きくなって、頭や手足を持つようになった。

 星は、もはや、考える頭も、草を掴む手も、大地を踏む足も、遠くへ届く声も、必要なものは全て持っていた。
 星は空に言った。
 空は星に、どこにでも行って、幸せになるように伝えた。
 そして空は一切沈黙した。

 しかし、星はそこから一歩も動かず、荒野に座したままだった。
 星はやがて光を失い、荒野の小さな石になった。

 天使はまた星を落としたが、星はことごとく石になったので、荒野は石だらけになった。
 天使はいつしか荒野に訪れなくなり、荒野は沈黙と小さな石ころがあるばかりだった。

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