香水

僕は独りの女を抱いている。
女は僕の教え子で、僕は彼女に先生と呼ばれている。
彼女は僕の耳に舌を這わせ、柔らかく噛み付いた。
僕は身体を震わせ、彼女を強く抱いた。
彼女の身体から、彼女がいつもつける香水が香りたった。

彼女は性とは無縁の風情だった。
頑なな、開かない蕾を連想させる彼女の容姿は美しく、異性の劣情を誘うに足りえると思われたが、不思議と彼女には異性の影がなかった。
接してみると、彼女が全く性的な匂いを持っていないことがわかった。
その思考のプロセスは男性的と云っていいほど簡潔で明瞭であり、気性は穏やかに安定していた。
そして、彼女の微笑は、見るものの毒気を失わせるような、聖性に満ちていた。

僕は、そんな彼女の殻の中にある浅ましい女性性を解放したいと常々思っていた。
抑圧されていると感じられるほど、彼女は潔癖な空気を纏っている。
そして、それは彼女の周りから人を遠ざけるほどの威力を持っていた。
叶うならば、そのヴェールを剥ぎ取り、本来の彼女を審らかにしたいと、僕は思っていたのだ。

そして僕は彼女を誘惑した。
手を変え品を変え。
彼女の肉体を手に入れることを望んでいたのではなく、彼女のヴェールを剥ぎ取るために。
剥ぎ取るのは何者でも構わなかった。
ただ僕は、本当の彼女を知りたかっただけなのだ。
それは純粋な興味からであり、肉欲はあまり関係なかった。
自然な姿の彼女の、その美しさを楽しみたいと、そう思っていたのだ。

しかし、彼女は僕の手の中に落ちてきた。
親子ほども年齢の違う僕の手の中で、今彼女は喘いでいる。
高く掠れた声は妖艶で、かの潔癖な空気は見る影もなかった。

僕は呟いた。
「ちゃんと女の顔してるんだな」
彼女は、僕の指を飲み込んだ腰をくねらせた。
熱い襞は、その度に僕の指を内側へと引き込む。
「・・・・・・そうですか、先生」
私はずっと女ですよ、と敬語を崩さずに、僕の下で悶える彼女は、ベッドサイドの橙色の明かりに照らされて美しかった。
「明かりを消してください」
何度目かか分からない彼女の言葉を、その唇を塞ぐことで遮った。
彼女の顔が、性を持たない生き物から女へと変貌するのを、僕ははっきりと見たのだ。

それはまさに蝶が羽化するような変化だった。
あの、聖女の微笑とでも云うべきほほえみは、淫蕩な誘惑へと転じた。
白く、程よく脂肪の乗った皮膚は、滑らかで、指に引っかかるところなど皆無の癖に、指に追いすがってきた。
露にした乳房は豊かで張りがあり、乳首はつんと尖って快楽を主張する。
おそらく、男に抱かれるために生まれてきた体が僕の前にあった。
最初はおずおずと僕の口付けに惑っていた舌は、僕の口内に忍び入り、上あごをそっと撫でた。
処女と噂されていた彼女が、こんなに積極的であるとは、僕は予想だにしていなかった。

僕は指を彼女の胎内から引き抜いた。
ため息ともつかない喘ぎが彼女の唇から漏れ、彼女は僕に訴える。
僕はそれに答えるべく、彼女の濡れたヴァギナにペニスをあてがった。
滑るそれに彼女は僕の首を引き寄せ、耳元で、
「先生、ここです」
と囁きながら、その指で僕のペニスを自分のヴァギナへと導いた。
濡れそぼって、口を開けたそこは、僕のものを飲み込んでいく。
きつくて暖かで、そして蠕動する胎内は、僕に目くるめくような快楽を与えた。
「君のここ、好過ぎるね」
少なからぬ僕の経験から、彼女のような身体は稀であることを告げると、彼女は嬉しそうに笑った。
無邪気な他愛もない笑いだった。
「先生、気持ち好いですか?」
「ああ、いいよ。
君は?」
彼女は僕の問いかけをはぐらかして、一層強く僕を締め付けた。
息も絶え絶えに喘ぎながら、僕の突き上げに、苦しげに眉宇を寄せながら、けれども彼女は答えなかった。
僕は彼女を翻弄した。
彼女の乳房を、クリトリスを充分に弄び、舌を絡ませ、声を堪能した。
僕は彼女の中に射精した。

「君のつけている香、好きだな」
僕はシャワーを浴び、彼女にもそれを勧めてから、上がってきた彼女に云った。
「ありがとうございます。
今度先生に差し上げましょうか?」
「いや、いいよ」
彼女の横顔はいつもの、あの凛とした侵しがたい微笑を浮かべつつあった。
僕は、その不思議に感銘を浮かべながら、彼女の太腿に手を滑らした。
滑らかな美しい皮膚は僕を拒みはしなかった。
「いつもとは全然違うんだね」
揶揄したわけではなかったが、自然と口をついてでた。
性の匂いが全くしない彼女と、雌の匂いを振りまく彼女、どちらも彼女ではあるのだが、その天秤はどうやって保たれているのだろう。
「どちらも私です。
私、先生が私に何を望んでいるか分からなかったので」
彼女は濡れた髪をひと房指に巻きつけた。
「どうしようと、思っていたのですが、もう怖くないです」
どうやら、彼女は僕が彼女のヴェールを剥ぎ取りたいと思ってやっていたことの意図が掴めずに怯えていたらしい。
「僕が君とこうなりたかったって?」
彼女は声を立てて笑った。
「そうじゃないですよ。
・・・・・・そうですね、こうすることで、私は私が先生について知らなければいけないことは全部知りました。
だからいいんです」
僕は彼女の真意を掴み切れてはいなかったが、追求することは憚られた。
「男の人に喜んでもらえる身体って言うのはいいものですね」
「いきなり、何を言うんだね、君は」
彼女はまるで自分の体が、与えられた玩具だとでも思っているのだろうか。
「だって、嬉しいでしょう?私の身体で喜んでもらえるって」
僕の脳裏に、彼女の言葉が浮かんだ。「気持ち好いですか?」問い掛けて、彼女は答えなかったその回答が、ここにあった。
彼女にとってセックスは性の営みでも、快楽の共有でもない、何かなのだろう、とぼんやりと思った。
「・・・・・・僕は、人格的に興味が持てないと、やらないけどな」
ぽつりと呟いた僕に、彼女は優しげに、
「そうじゃない人も、いるんですよ」
とだけ云って、僕の髪を撫でた。
淋しげな仕草だった。

僕には家庭があり、これも一度だけのことだった。
彼女はその後、何もなかったように振舞った。
ただ少しだけ、僕に親しげになっただけで、誰も彼女と僕の間に交わされたものに気づくことはなかった。
彼女は、やはり聖性を纏い、冒しがたい美しさでそこに佇んでいる。

ただ、彼女のつける香水が、僕にあの夜を思い出させるのみだった。

020114

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