影をさらうあなた
――連れて行って、時のあなたへ
ライハナアーカイブ
――連れて行って、時のあなたへ
「あざっしたー」 深夜のコンビニに店員の声が響く。 真弓は入り口から入ってすぐの陳列棚の前に立ち尽くしていた。 真弓の目の前には...
「お義母さま、とてもおいしいですね、この卵焼き」 「あらいやだ、千春さんたら、マサ子と呼んで!」 「ははは、冗談がお上手ですね。お義父さ...
ヒサカの夢は鮮明だ。現実世界よりもコントラストを強くした総天然色の夢。ヒサカはヒサカ自身の目を通して、また鳥や花の眼を借りて、夢の世界を見...
静雄には気になる女子生徒が居た。シズオの席から二列挟んで斜め前に座る、緋沙加というその女子生徒は、シズオに凛とした横顔から続く白いほっそ...
「しずる、また違うひとと付き合いだしたの?」 「やーね、ただのセフレよ」 部屋の大部分を占領するベッドの上下にはみ出すほどの長...
男が二人、闇の中に立っていた。 そこには、愛する者を喪った男がいた。 男は狂った修道士の群れに交じり、窓の外を見ていた。 心持...
「ほら、早くしてよ」 泥酔した友達に肩を貸して、居酒屋を出る。 大人数のコンパ、はめを外した若者ならぬバカ者は、他にも大勢いる。 ...
天使が荒野に降ってきて、小さな星を落としていった。 羊飼いはそれを拾って、王に届けた。 王は星があまり輝くので、むしゃむしゃと星を...
「グリコしよう」 「はぁ?」 一紀は素っ頓狂な声を上げた。 もうすぐ取り壊されることが決まっている旧校舎には、図書館が取り残されて...
リクはヘンな男の子だ。 僕はリクと一緒に絵を書くのが仕事だ。 リクと僕は、ひとつの机で頭がくっつきそうなほどひっついて絵を描く...
「最近、駄目なんだよね」 麻実子はそう言ってカクテルのグラスを傾けた。 「また、だんなと喧嘩でもしたの?」 私と麻実子はこのバーで知り合った...
「セイちゃぁん、痛いよぅ」 あたしは涙声で言った。 せいちゃんは何も言わない。黙ったまま、もう一度あたしのほっぺたをぶった。 「セイちゃん、...
窓の外はどんよりとした曇り空だ。屋根の色が一様に灰色なのは天気のせいばかりじゃない。古い町並みは揃ってくすんでいる。 あたしはため息を漏らし...
その頃、僕は毎年、夏の数週間を海辺の別荘で過ごしていた。 別荘は海岸の際に建ち、台風の夜は波に攫われないのが不思議なくらい、海のそばに佇んで...
僕は独りの女を抱いている。 女は僕の教え子で、僕は彼女に先生と呼ばれている。 彼女は僕の耳に舌を這わせ、柔らかく噛み付いた。 僕は身体を震わ...
私は歩いていた。 それは困難な道だった。 歩いても歩いても到底目指すところには辿り着かないのではないかと、幾度も疑わずに入られない程のもの...
「児玉さん、お疲れ様です」 都は明るく声をかけた。 「お疲れ様」 児玉は、軽く頭を下げた。 都は今年で二十歳、児玉は今年で三十四になる。小娘...